デザイン思考の概要を15分で学ぶページ

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こんな人におすすめ

  • デザイン思考を学び始めた人
  • Human Centered Design を自社のチームや組織に組み入れたい人
  • 目次

    (既にデザイン思考や人間中心設計プロセスをご存知の方は後半から読むことをおすすめします。)

    ビジネス界からも注目を集めるデザイン思考

    今月(2015年5月)、コンサルティングファームのマッキンゼー・アンドカンパニー(McKinsey&Company)がデザインファームのLunarを買収しました。

    (参考:McKinsey & Company Acquires Lunar, One Of Silicon Valley’s Oldest Design Firms)

    実はこの事例の前にも、AccentureによるFjordの買収等(2013年)近年、デザインの要素を取り入れている動きは活発化しています。

    この様な経緯もあってか、最近はビジネスの現場からも「デザイン思考」という言葉が広がってきた様に思います。

    しかし、デザイン思考が具体的にどの様なものかについては、今まさにより多くの業界に知られてきた段階ではないでしょうか。

    この記事ではデザイン思考とそれをベースにしたプロセスであるHuman Centered Designの概要について紹介していきます。

    デザイン思考はなんとなくは理解できるのですが、実際に腹落ちさせるのが難しいテーマです。

    1つは左脳的なロジックと右脳的な要素を取り入れた考え方のため、全体像をつかむのが難しいという事が挙げられます(あくまで右脳的なプロセスだけではない事に注意)。

    実際に理解するには、ある程度実践経験を積む必要があるでしょう。この記事はその前段階として概要を知る事を目的にしています。

    あえて、良く紹介されるEmpathize>Define>Ideate>Prototype>Testというプロセスにはこの記事では深く突っ込みません。(これらについては各要素について深堀りして書きたいとおもいます。)

    それでは見ていきましょう。


    デザイン思考 (Design Thinking)とは?

    既にWEB上には優れたドキュメントが沢山あるのでそれらを紹介しながら説明していきたいと思います。

    デザイン思考

    (Image via IDEO/HBR)

    Wikipediaによると

    デザイン思考(Design Thinking)とは、人間中心デザインに基づいたイノベーションを起こすための、主として非デザイナーを対象とした発想法である。 (出典元:Wikipedia)

    と定義されています。

    人間中心デザイン、という言葉がでてきました。

    これはどういった意味なのでしょうか。デザイン思考の歴史を振り返りながら見ていきましょう。

    デザイン思考は元々アメリカのデザインコンサルティングファームのIDEO社のプロセスが注目されたことから広がってきたと言われています。

    そのIDEOのCEOであるTim Brownはデザイン思考を次の様に定義しています。

    “Design thinking can be described as a discipline that uses the designer’s sensibility and methods to match people’s needs with what is technologically feasible and what a viable business strategy can convert into customer value and market opportunity.”

    (designthinking.ideo.comより引用)

    つまり

    デザイン思考とはデザイナーの感性と手法を用いて、ユーザーのニーズと技術的な実現性、ビジネスとしての持続性を確保するための戦略を整合させていく事で、顧客価値をマーケット機会に変容させていく手法(discipline)

    であると述べられています。

    IDEOはこのデザイン思考をベースに、商品やサービスを利用する人の要求(Desire)を知る事を起点にアイディアの創出、ビジネス化の検討を行うHuman-Centered Designというプロセスを提唱しています。

    イノベーションは、技術シーズから生まれたり、マーケットの機会を探るところから起こるケースもあるでしょう。しかし、Human-Centered Designでは始めに顧客の理解(Design)を起点に始まる事が1つのポイントです。

    Human centered design

    Human-Centered Designのイメージ図 (Illustration by SN)

    Human-Centered Designは人間中心設計手法とか人間中心デザインと呼ばれています。

    実際にソリューションにつなげるには、ユーザーを分析することでInspirationを得ます(Empathize)。それを元に解決する問題を特定し(Define)、それを解決するためのアイディアを作っていきます(Ideate)。

    このアイディアが本当に有効なものかを確かめるために、プロトタイプを作り(Prototype)、ユーザーにリアルな環境の中で使ってもらいながらフィードバックを得ながらアイディアの確度をあげていきます(Test)。

    この過程ではしばし、テクノロジーやビジネスの領域をいったりきたりする必要もでてきます。 

    余談になりますが、そういった意味ではこのプロセスはシリアルイノベータ(企業内で連続的にイノベーションを成功させている人材)が体現しているものと、似ている様に思います。


    IDEOはこのHuman Centered Designを紹介するために下のショートイントロダクションビデオを公開しています。

    What is Human-centered Design? from IDEO.org on Vimeo.

    上の紹介ビデオの他にもHuman Centered Design Tool Kitという形で無料で公開されているので、詳しく知りたい方は下のURLをご覧ください。

    IDEO|Design Kit

    (最近更新されたばかりです。またメールアドレスを登録すると現在は日本語版も入手できるのでおすすめです。)

    デザイン思考が広がってきた経緯については下の記事でも詳しく書かれていますのでぜひご参照下さい。

    0から1を創り出すデザイン思考 ― 新たなイノベーション創出手法 – Build Insider

    Human-Centered Design は有力なイノベーションの手法に成り得るか?

    ここまででHuman Centered Designは、エンドユーザーを起点に問題を抽出し、技術的な実現性、ビジネスの持続性を達成できるソリューションを作っていく手法という印象を持っていただけたかと思います。

    しかし、このHuman-Centered Designにより、どの様な効果が期待できるのでしょうか。

    そしてイノベーションを起こす上で、どの様な役割が期待されるのでしょうか。

    顧客の真のニーズにいかに近づくか?

    Gap cliff

    最大の利点は顧客の真のニーズにより迫る事ができる事だと思います。

    顧客の視点に立とうと頭では考えていても、しばしエンジニアやビジネス担当者とユーザーの間には隔たりが生じてしまいます。

    1つ私の所属しているデザインファームの事例(公開されているもの)を紹介します。

    あるインシュリン(糖尿病患者が使用する薬)の製造メーカーが患者が片手で自分に楽に注射を打てるキットを販売していました。

    彼らの製品はヨーロッパを中心に売れていましたが、これからシェアを伸ばしたいインドでは何故か伸び悩んでいました。

    競合他社の製品が大きく変わるわけでもなく、ブランドイメージ調査等の結果でも大した差異が見られず、会社の技術者やマーケティングの部門も不思議に感じていました。

    この原因を探るべく、外部のデザインコンサルと研究開発チームが現地に赴くと、予想もしていない光景が広がっていました。

    彼らの製品は患者のユーザビリティを考え、一人でも楽に注射が打てる様に工夫した製品を販売していましたが、インドではほぼ全てのユーザーが自分ではなく家族や友人に注射をしてもらっていたのです。

    これは自身の体のケアをする場合に信頼できる家族に委ねるという文化的な背景によるものだそうです。

    そのため、この様な形式で注射する場合にはこの会社の片手で操作するキットは使い勝手が悪く売上が伸び悩んでいたという事が明らかになりました。

    これは、商品を設計する際には実際にユーザーがどういう状況で使うかといったコンテクストが重要な事を示す1つの例です。

    この様な例は消費財や火災報知機等色々なケースで語られているので、興味の有る方はぜひ探してみてください。

    顧客の理解がテクノロジーやビジネスをレバレッジする

    Human-Centered Designでは上記の様に顧客の考え方、置かれている状況をリアルなコンテクストの中で理解する事から始めます。

    しかし、実際には顧客の理解は容易い事ではありません。

    例えば、下の図はよく使われるEmpathy Diagramというモデルです。人が「感じる事」、「話す事」、「考える事」、「行う事」は一致しないという様子を表しています。

    つまり顧客自身も自分の要求や考えを必ずしも理解しているとは限らないのです。

    Empathydiagram

    (Empathy Diagram| illustration by SN)

    有名なマーケティングの格言から1つ事例を紹介します。

    「ドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルではなく穴である」

    もし営業マンがエンドユーザーの声のみを聞いたとしたら、「より軽いドリル」、「強度に優れるもの」、「低コストなもの」・・・etc.といったドリルに関する情報がはいってきたでしょう。

    しかし、問題を穴を欲しいと捉える事ができれば、営業マンは穴あきの部材を仕入れて高利益率で販売したり、場合によってはより効果なレーザー加工機を販売できる可能性もあるかもしれません。

    この様に顧客のより本質的な問題に迫れた時には、自社の持っている要素技術をより広範囲に活用したり、物流等のアセットをさらに活かすことができる可能性がでてきます。この様にHuman Centered Designによる顧客の理解は自社の持つリソースをレバレッジさせる事ができる可能性があるのではないでしょうか。

    ここで注意したいのは、決してマスのアンケートは軽視されるべきものではないということです。

    デザインプロセスにおける顧客調査は問題を定義するために行うものであって、市場の大きさや統計的なデータに関しては時間がかかりすぎるため、向いていません。

    このプロセスはあくまで既存のプロセスと相補的な関係として成り立つものであると私は考えています。

    不確実性のリスクを減らす

    Uncertainitiy

    もう一つ別の側面についても触れてみたいと思います。例えば皆さんがある商品やサービスを思いついたとして、それが今まで誰もやったことのない手法だったらどうするでしょうか。

    Human Centered Designでも、しばしこの様な解答に着地することもあります。

    もし、市場に投入するまでの初期投資や期間が短く、撤退コストもかからないようでしたらすぐに試すという選択肢もでてくるでしょう。しかし、ある程度コストがかかり、前例がないものは企業や組織のいては実施に踏み切るのが難しいというケースも多いのではないでしょうか。

    デザイン思考ではユーザーの観察や分析、インタビュー等の活動を通して、顧客の理解や抱える問題に対する理解を深めていきますが、ここで得られた重要な問題もあくまで仮説にしかすぎないという構造になっています。

    発見した問題が本当に重要かどうかは、顧客が本当にその商品やサービスに金銭的対価を払ってくれるかというプロセスを経てはじめて明らかになってきます。

    そのため、デザイン思考ではアイディアを形にしていく段階で様々なプロトタイプをつくり、そのアイディアを評価していきます。この様な過程を経ながら徐々に仮説からより具体的なビジネスプランへとブラシュアップしていきます。

    プロトタイプにも時間をかけない事が好ましいので、実行者は時には紙でつくったペーパープロトタイプ等を用いて、ユーザーと一緒に仮説検証を行っていきます。

    この過程はソフトウェアのUIデザイン等で行われる各種ユーザーテストや最近話題のLEAN UX等の手法とも通じる部分が多いのではないでしょうか。
    (※ Lean UXはアジャイル等の要素も入ってくるので異なる部分もありますが、MVP等の考え方には近いものがあるとおもいます。)


    この様にデザイン思考(のプロトタイプパート)は新しい打ち手を検討する際に、不確実性を減らす方法としても利用価値はありそうです。

    広く活用される有効な手法になり得るか

    今回はプロセスの詳細には触れませんでしたが、期待される効果等の一部を紹介しました。皆さんはどの様に感じられたでしょうか。

    Human Centered Designがイノベーションを起こす際に必須のツールや手法になるでしょうか?

    この手法自体がマストなものかというと、私はそうではない様に思います。

    なぜなら、上記で上げた様な活動はすでに無意識に実践されているケースも多いからです。デザイン思考|Human-Centeredという枠組みで行う必然性はないとおもいます。

    また、優れたアイディアを実際にビジネスとして持続的に成功させていくには、どこかで勝てる仕組みを作る必要があるでしょう。

    この仕組みはテクノロジーであったり、顧客エンゲージメントであったりと色々ですが、デザイン思考はその部分に解を与えてくれる魔法の杖ではありません。

    一方で、技術やビジネスアセットとしては優位なものをもっていても、追いかける指標(取り組むべき問題)を誤ると競争に敗れる可能性もでてきます。

    下の「超入門失敗の本質」で多く紹介されているので、興味の有る方はぜひご参照下さい。


    そういった意味ではHuman Centered Designの基本的な考え方や、顧客の要求を引き出す技術、定性的な情報の活用方法はイノベーションにおいて重要な役割の1つである事は間違いなさそうです。

    また上で述べたように、デザイン思考は自社のリソースをレバレッジさせる可能性を秘めています。

    これらの点を踏まえると、デザイン思考の要素を何らかの形で取り入れる事は競争力(あるいは競争という場に立たない力)を維持強化していく上で必須になってくるかもしれません。

    LEAN UXの例等はソフトウェア開発に合わせてこれらの要素が最適化されている例とみることもできるのかと個人的には思っています。

    また、品質マネジメント手法の様に組織に広く浸透させていく事は可能でしょうか。そしてそのためにはどのようなアプローチが考えられるでしょうか

    1つはIDEOが紹介している様なTool Kitをきっかけに、デザイン思考のプロセスを自分の組織に組み入れていく事は効果的かと思います。

    ただし適切に取り入れるには、両方のプロセスを理解した人材を育てるか外部から呼んでくる必要があります。

    また、広げていくためには成功体験も同時に作っていく必要があるので、それなりの時間がかかるでしょう。

    そのためには組織内で影響力のある立場の人がリーダーシップを発揮して導入を進める事が求められるかもしれません。

    最後にデザイン思考で大切とされている要素を上手く取り入れていたのではないかと、想像される事例を紹介します。

    例えばAppleのスティーブ・ジョブズ氏は次の様な発言を残しています。

    多くの場合、人は形にして見せて貰うまでは自分が何が欲しいか分からないものだ

    また、日本ではソニーの創業者の井深大氏が次の様な発言を残しています。

    (前略)・・・こういったパラダイム・シフト、つまり人間の心を満足させることを考えていかないと、21世紀には通用しなくなることを覚えておいていただきたい。

    彼らは必ずしもHuman-Centered Designの様なプロセスを形式的に導入したわけではないでしょう。

    しかし、自身がその分野のコアユーザーであったり、人の問題を解決する事に対する強い使命感を有していました。そのため、顧客を深く理解し重要な問題を見つける事に長けていたのではないでしょうか。

    デザイン思考が産業に広く普及していくのはこれからだと思うので、今後も勉強と実践を続けていきたいと思います。

    次回以降の記事ではより具体的な現場でのプロセスの様子や自身が躓いた点等を書きたいと思います。

    長文をお読みいただきありがとうございました。

    デザイン思考の具体的な現場での活用の様子や導入の課題については現在別記事を執筆中です。下のページで順次コンテンツを加えています。

    (Link挿入予定)

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