People-Centered Design を活用するために大切な事

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エンジニアリングからデザインへの越境

 先日、某日本企業の方で留学を予定している方から、CIIDを見学したいとのご連絡をいただきました。

エンジニアリングがバックグラウンドの方でデザインスクールに留学を希望されている方に会うのは、初めてでしたので色々と情報を交換させていただきました。

 話してみると会社は別でも似たような課題があるようで、とても興味深かったです。もし多くの企業が似たような悩みを抱えているとすると、今後はテクノロジーから越境してデザインの世界に来る人が増える可能性を感じました。

 注目が増える一方で、デザインスクールで身につく内容が本当に企業の中で活用され、投資価値があると判断されるかは、卒業生や留学生のアウトプット次第かと思います。

 今回は、現在学習中のPeople-Centered Design手法について、実際に働きながら感じた大切と感じた部分と、実際に企業等で活用しようとする際に生じるであろう問題について思う所を書きました。。


デザイナー の価値について考える

 こちらにきてからデザイナー達とPeople-Centered Design (PCD)という手法を用いながら仕事をしています。


Pcd

CIIDで行っているPeople-Centered Design のイメージ図


 People-Centered Design は上の図の様にDesign(誰のどんな問題を解決したいか)の部分から開始します(Desirability)。その後、技術や組織としての実現性(Feasibility)や価値提供の持続性をビジネスの観点から考え最終的なソリューションへと落としていきます(Viability)。最近はビジネスの世界でも積極的に採用しようという動きが見られています。

 この様な手法はデザイナー達が昔から活用していました。People-Centered Designを実際に活用することを考える前に、どのような人達がこのツールを使っているのかについて最初に触れておきたいとおもいます。

エンジニアからみたデザイナーの強み

 こちらに来てからデザイナー達と一緒に働いています。彼らは一見すると絵が上手かったり、コンセプトを語れる等の点が目立ちますが、私にとって特に印象的だった点は、「マインドセット」の部分でした。人の話や考えを理解しようという意志(傾聴力とでもいうのでしょうか)が他の人より強い様に感じます。

 また、それを繰り返しているためか理解するスピードが早く、異なる事象を結びつける能力にも長けているように感じます。

 話のトピックがテクノロジー、哲学、歴史、心理学、建築・・・・etc.と幅広くても、相手が伝えようとしている事を理解する事に集中します。話し相手は必ずしも「自分のフィールド」について話す事が上手いとは限らないのですが、自らがファシリテータになりながら上手くストーリーとして引き出していくのです。優秀な営業さんに近い印象です。

 私自身も彼らと会話をする中で自身の理解が深まるような場面が何度もありました。

 細かいスキルの話は色々とあるのですが、私がデザイナーと呼ばれる人達が最も価値を発揮している点は、このメンタリティに起因する部分が大きいと思います。

 実際にはどの様な場面で力を発揮しているでしょうか。私はPeople-Centered Design の次の部分で特に彼らのプレセンスを感じました。

1. 複雑な事象の中で問題を理解する

 意外と自分たちは問題を正しくDefineできていないケースが多い事を、こちらに来てから感じています。「何故その問題が重要なのか?」、「何が問題なのか?」この2つを掘り下げるには単体の事象ではなく、ユーザーやその周囲の人達の考え方、文化、環境等の複数の事象をつなげていく必要があります。

 この過程では、具体的な事象を一度分析し、それらを構造化していきます。そしてより抽象化した問題として定義していきます。これは必ずしもロジックだけで組み立てられるものではなく、相手に対する深い共感や洞察力、そしてそれらを組み上げていく構築力が必要になります(私は現在も悪戦苦闘中)。

 共感する能力を備えている人は、相手の問題をより深く考える事ができるため、時にはユーザーですら気づかない様な問題にアプローチする事ができます。複雑事象においてはこの様な能力が特に重要になるのではないでしょうか。

 また、デザイナーは多くの沢山のケースをこなしていく中で、データの分析・構造化のノウハウと事象のピースが蓄積するという、正のスパイラルが回っているように思います。そのためカオス的な状況の中でも自分たちが進むべき方向性や課題を定義するのが上手だと感じました。

2. 問題をストーリー化し共有する

 次は定義した問題を絵や形にしたり、時にはメタファーを用いながら翻訳し、ストーリーを作り上げていく力です。定義された問題(一次データからより高度に抽象化されたもの)は時に、共通理解を作り上げることが難しいです。

 また、複数のOpprotunity Areaを可視化し、優先順位をつける際には時間の概念を含めた体験全体を俯瞰することが有効になります。それを助ける方法としてアイディアをストーリーとして語り、コンテクストの中で表現していきます。この部分では共感力、構築力、表現力が重要と感じます。

3. ファシリテータとしてチームを導く

 最期は多様性のあるチームの中でこの様な問題を、試行錯誤しながら具体化していく力です。デザイン思考は仮説検証のを含むIterativeなプロセスのため、状況がめまぐるしく変化していきます。この時にファシリテータがとても重要な役割を果たします。

 ファシリテータは扱う問題だけではなく、メンバーの考え方や全体のディレクションについても考えを巡らせる必要があるので、広い視野とバランス感覚が要求されます。

ハードスキルとソフトスキルの連携

 先ほど紹介したメンタリティやマインドセットはテクノロジーと比べると定義しにくい部分ですが、確かに存在するデザイナーの強みだと感じています。絵がうまくかける、良いキャッチコピーを作れる、美しい色の組み合わせを選べる・・・等のハードスキルだけではなく、優れたデザイナーと呼ばれる人達はメンタリティ等のソフトスキルとハードスキルの両方が上手く結びついている様に思います。

 現場ではこれらのソフトスキルとハードスキルを結びつけるものとして様々なツールがミドルウェアとして存在しているという印象です。そのため適切なツールを選ぶためには経験を積んで正しく選択できる様になる必要があるでしょう。

 このハードスキルとソフトスキルの話はデザイナーだけに言えたことではないと思いますが、一般的なエンジニアがハードウェアスキルに大きなウエイトをおいているのに比べると、デザイナーはよりバランスをとっている人が多いと感じました。



Strength

Designer と Engineer のスキルモデル

デザイナの壁

 これまでの話を見て、もしかすると何名かの方は

「傾聴力やファシリテーション能力なら自分の普段の仕事でも、十分に訓練できている。結局はハードスキルくらいしか学ぶことがなさそうだな。」

と思われるかもしれません。

 しかし、この様に誤解してしまう部分に罠が潜んでいると思っています。

 近年、デザイン思考という言葉が少しずつ流行りだし、書籍等では「デザイン思考は誰にでもできる。」や「誰でもクリエイティビティを発揮できる。」といった輝かしいキーワードが紹介されています(これ自体は本当かと思います。)。この様な状況は、デザイン思考のプロセスをひと通り体験し、表現のために必要なツールを学べば、すぐにデザイン手法を取り入れられるという認識を与えるかもしれません。

 実際に数ヶ月過ごしてみると、どうもそう単純な話でもなさそうです。People-Centered Design や 各種Toolをワークショップ等で学び、それらの手法やツールを真似たところで、デザインスタジオの様なアウトプットを得ることは容易ではないと思います。

 なぜなら、デザインシンキング活用の重要な部分は、そのメンタリティに起因している部分が多く、ツールはあくまでそれをサポートするための道具にすぎないからです。(もちろん適切にツールを使うことも重要です。またデザイン思考自体がツールといえるかもしれません)そしてメンタリティの部分は短時間で学ぶことは難しく、その様なカルチャーを持つ場所に身を置き、実際の作業を何度も行わないと中々感じられない部分ではないでしょうか。

 また、デザイン思考のプロセス自体がチーム活動である事もこれらの手法を取り入れる際のハードルになると思います。様々なバックグラウンドを持つ人達と直接関わりながら活動し、時には自分のメンタルモデルを一度取り払う必要があります。

 会社ではチームの多様性を確保するために、部署横断的な動きが必要になるでしょう。はじめてPeople-Centered Designを扱う人にとっては自分のコンフォート・ゾーンからでる事を要求されます。別のプロセスで成功体験のある人にとっては特にこの部分がハードルになるでしょう。(本当に活用するべきかという議論はまた別に存在します。)


People centered Design

People-Centered Design 導入のイメージ

顧客価値分析について思うこと

 私も企業で研究をしている際には技術だけではなく、研究開発対象の顧客価値等について考える事に多くの時間を使っていました。それらの妥当性を検証するために色々な部署の専門家に話を聞いたり、時にはマーケティングや調達の部署の方からアドバイスをいただいたりしてきました。

 これらの活動も重要なのですが、どちらかというとテクノロジーのディシプリンであり、上に紹介したデザイナのディシプリンとは異なる部分が多いと思います。CIIDのコンサル部門の方が次の様な事を仰っていました。

「仮に一万人規模のアンケートをやったとしても、ユーザーリサーチと同じようなインサイトは得られない。」

 このメッセージは、左脳的に分析できる項目だけでなく、自分の中で彼らの問題を直接体験し、共感するという部分がデザインのフィールドでは、欠かせない事を表しているとおもいます。

ツール先行の危険性

 今の状況はある意味MBAが流行りだした時(当時を直接みたわけではないのですが・・・)と似ているのかもしれません。

・デザイン思考というキーワードが流行り、IDEO等の会社がHBR等の雑誌に載ることで注目を集める。(←現在はこの段階で多くの企業が様子を見たり、その次のインストールの段階に移行しつつあると思います。)

この後はどの様な展開が待っているでしょうか。
警笛を鳴らす意味でバッドストーリーを書いてみます。

・ワークショップ等を体験する事で一定の理解が得られる。フローやツールを真似るのは最も簡単であると同時に、大きく変化した様に感じるため、真っ先にその部分だけインストールする。

・大切なソフトスキルの部分がインストールされていないので、ミドルウェアであるツールキットは上手く機能しない。

・成果がでないので、廃止される。(またしばらくすると別の人が興味を持ち、ツールだけ採用される>以下繰り返し)

 もし本当にPeople-Centered Designがすぐに、誰にでもできる様な内容ならおそらくIDEOはツールを一般公開はしないのではないでしょうか。(もちろん彼らが善意でやっている部分もあるとはおもいます。)

エンジニアのデザイン留学という選択肢について

 エンジニアが留学先にデザイン分野を選んだ場合、次の体験が貴重なものになると現時点では考えています(希望含む)。

  • デザイナの考え方、アウトプットまでのプロセスを直接体感できる
  • 多様性のカオスの中で仕事を推進していく体験(スタートアップに近い?)
  • 表現に必要なプロトタイピングスキルの一部を習得できる

 エンジニアがデザイン領域に留学する場合には、上の内容を学ぶ事に一年のキャリア投資を本当にするべきかは良く考えておいた方が良いと思います。
「それが社会、会社にとって必要と信じられるか」、「本当に自分のやりたい事にリンクしているか」は重要な問かとおもいます。

 なぜなら現在の(日本の)エンジニアのキャリアパスでは、デザイン分野のディシプリンを活用できる様なケースがあまり見られません。そのため、学びを今後の価値につなげていくためには、自分で仲間をみつけ、その人達と周囲の考え方や会社の仕組み等を変えていく様なことが必要になります。この時に支えになる部分が、上の問に上げたようなモチベーションになるのではないでしょうか。

 実際にデザイン思考等のツールを学び、大きな企業に持ち帰ろうとすると、次の様な問題が起こると予想しています。

  • デザインの重要度に対する温度差
    (デザインという概念の重要度についての認識が大きく異るでしょう。特に儲かっている会社、部署では本当に必要かという議論が起こると思われます。)
  • スキルと組織構成
    (必要なスキルの習得には時間がかかり、そのための訓練期間は少ないと思われます。また優秀なファシリテータ、実践者が必要になります。そして重要であるはずの多様なメンバーの確保は1つの部署だけでは困難になります。いわゆるサイロがある様な組織では、本来のポテンシャルが引き出せないでしょう。)
  • ワークプロセスとの衝突
    (本格的な投資判断の前に、ある程度リサーチとしての出費と時間を許容する様なフレキシビリティが必要になるでしょう。もちろん支出は最小限に抑える必要がありますが、意思決定のフローや判断基準をデザイン思考を活用する際には変更する必要があるのではないでしょうか。

エンジニリングデザイナーの役割について

 この様にデザイン留学は(企業留学の場合)、一年間学んだ内容が企業の文化やメンバー構成に大きく影響される選択になります(もちろん個人のメンタル・モデルチェンジなどは起こり得ますし、スキル自体は活用できる)。
 特に個人では手の施し様のないメンバーの多様性については、専門性、趣向の面で比較的均一化されているのが実情ではないでしょうか(一部の比較的小規模の研究所等の例外を除く)。

 それではデザインを学んだエンジニア(仮にエンジニアリングデザイナーと呼ぶ)はどの様にこの問題に対して取り組んでいくべきでしょうか。

 1つはエバンジェリストとしての役割かと思います。実際に感じたデザインアプローチについて大切だと思うことをメンバーに共有し、歪んだ形にならないように推進していく事。デザインという概念、異なるモノの見方の重要性を発信し続ける事により、組織の内部からソフトスキルを少しずつインストールしていくことは、とても重要な仕事だと思います。またこの役割はテクノロジーという共通言語を持つエンジニアリングデザイナーが最も相応しいとおもいます。

 もう1つは自身がハブになって、人を有機的につないでいく、コーディネータとしての役割があるかと思います。これは会社内だけではなく、大学、別の会社(異なる事業含む)、行政等も積極的に巻き込みながら進めていく事が好ましいと思います。私にとってはこのブログがある意味1つの窓口になって人とつながるきっかけになれば良いなと思っています。

終わりに

 今回は現時点でのPeople-Centered Designに関する認識や課題について書きました。これらの内容を残す事自体が、自分にとってのプロトタイピングの1つになっています。またしばらくして見返した時に、新たな気付きが得られると良いなと思います。今回の要点を以下にまとめます。

  1. People-Centered Design 手法は注目を集めてはいるが本当に会社(大きな組織)で使えるかは未だに未知数
  2. デザイナー達はメンタリティ等の面で異なるディシプリンを積んでおり、その部分がPeople-Centered Design を支える大きな要素になっている。
  3. 実際にPeople-Centered Designを活用していくためにはワークフローやツールだけではなく、メンタリティや組織構成といった問題まで考えるべきではないか。
  4. デザイン分野を学んだエンジニアはエバンジェリストやコーディネータとしての役割が期待できるのではないか

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